釣名人

■上手な釣人の条件

釣りの面白さを挙げろと言われれば、大自然の中で仕事や浮世のわずらわしさを一切忘れ、魚のことだけを考えて一日中過ごせることやストレス解消、癒しの世界にドップリ漬かれることだと思います。
しかし、天狗の集まりでもある釣り仲間の間では、その他にも釣りの上手な人とそうでない人や他の釣り人との腕の差、釣果の差も面白さとして挙げられます。
釣りが上手だと言われる人には先天的に狩猟本能にたけ、たいした努力もしないで最初から釣りの上手な人と「好きこそ物の上手なれ」で時間と努力を積み訓練を重ねて上手になった人とがいます。
稀に名人中の名人、天才などと呼ばれる人の中に野球界のイチローやゴルフ界のタイガーウッズなどがいます。彼等は先天的な素質を持ち、更に特訓を積んだうえに名人と呼ばれるようになりました。
趣味の釣りの世界では自分自身が楽しければそれで良いのですが、そこは天狗の集団、見栄は張りたいもので外見だけでも上手だと言われてみたいものです。
そこで、私が今まで客観的に観察してきた上手な釣り人の条件らしきものをいくつか挙げてみましょう。貴方にはいくつ
当てはまるでしょうか?

支度の早い人

身支度やタックルのセットを含め、上手な人には支度の早い人が多いものです。
そういう人はただ早いだけでなく、支度のし始めから釣りを始めるまで、全ての仕草や動きに余裕とリズムがあります。
反対にフィールドに着いてもあれこれとまだ迷いがあり、タックルをセットした後でラインがガイドを一ケ所通っていなかったとか、やっと支度が出来たと思ったらルアーだけ車の中に忘れてきてしまった・・・これらはどなたでも経験があることだと思います。
更に、いざ出発と言う時にトイレに行きたくなったりとか、いそいそと急いでいる割には結果的に無駄な時間を費やしてしまったり、一番釣れている時間帯に休んでしまっていたりとか、全てにおいてリズムの無い人はベストチャンス(モーニング、イブニンライズ、日中の僅かなチャンス)を逃しやすい人なのです。
特に近年のルアー・フライのような[動]の釣り、スポーツフィッシングでは 全てにおいてリズムが必要なのです。
もしも、貴方の周りに居る釣り上手な人で釣り支度の遅い人がいるとしたら、それは遅いのではなく余裕のある人なのです。

荷物の少ない人

その昔ミノーイング全盛の頃、本当に上手な人はロッドにミノーを一個セットしただけで、後は大きなランディングネット一つをボートに積んで釣りにでかけました。
他に持ったとしてもスペアーのルアーをポケットに一個だけと言う名人が何人も居ました。
当然のことながら上手な人にはお目当ての魚・釣り方に的が絞られている為に余計な荷物は持たなくて済むと言うわけです。
これは当店の桟橋でよく見かける光景ですが必要なタックルはともかくとして、衣類・食料・大きなクーラーボックスその他諸々、遭難しても2~3日程度なら大丈夫なくらいの大荷物をボートに積み込む人を見かけます。
たまの休みにピクニック気分ですべてを謳歌したい気持ちはわかりますが、あまり余計な荷物が多すぎるのは考え物です。
そういう人に限ってボートの中は乱雑で、ルアーを取り出したあとタックルボックスは開けっ放しだったり、積み込んだ荷物は足の踏み場もなくなるほど散らかっています。結果、大物がかかったとしても慌ててスペアーロッドを踏みつけて折ってしまう。手繰り寄せたフライラインが荷物にひっかかったために魚に伸されてリーダーが切れてしまう。釣り上げた魚が暴れまくって持ち物が魚の血だらけになってしまう・・・ などとロクなことは無いはずです。
釣り上手な人のボートの中は荷物が少ないものです。例え荷物が多かったとしても整然と片付いているものです
私達も他の湖に釣行の際は魚探・雨具・防寒具やらで車の中は立錐の余地の無いほどで、弁慶の七つ道具のように沢山の荷物になってしまいます。
特に一日の気温の変化が激しい内陸にある中禅寺湖などでは、僅か1日で釣り方が変わってしまう事が あり、素早くそれに対応しなければなりません。従ってトローリング・フライ・ヒメトロ・キャスティング用のタックルを各2セットづつ全てを現場まで持って行き、車の中にスタンバイさせておきます。
そして、まず朝一番に使うタックルだけをセットして釣りに出かけます。朝のベストタイムを3時間も釣りをすれば、その間に昼にはどんな釣りをすれば良いか予測がつくはずです。
朝食に戻った時に昼に使うタックルを積み足し、今度は昼の釣りをしている間に夕方の釣り方を絞り込み、船内の整理整頓は元より、余計なタックルは手元の明るいうちにボートから片付けておくようにすれば、最後まで快適に釣りに専念することが出来ます。
この様に1日の釣りのパターンを何回かに分けて不必要な物をできるだけ片付けるようにし、手元・足元をスッキリさせておくようにすることもボート釣り上達のための条件の一つと言えます。
釣りの世界だけでなく、大工さん、板前さんなど職人といわれる人達で腕のたつ人は全て片付け上手だと思いませんか?

目の良い人

目が良い人と言っても単に視力が良いだけでなく、湖に限らず海や川でも魚を見つけるのが非常に早い人がいます。湖では近くの足元を泳いでいる魚や、凪でいれば4~500メートル先のライズまで見つける人、海では1キロ以上離れた遥か彼方のイルカの跳ねや、霞の中にかすかに見える鳥山、魚が起こす水面の微妙な変化をいち早く見つける人がいますが、そういう人はだいたい釣り感も良く、見て釣る釣りばかりではないのに確実に全ての釣りが上手になる人です。
目が良い人でも魚の見えない人と、多少目が悪くても魚の良く見える人がいるのものなのです。
馴れということもありますが先天的なものが多いのです。

平行バランスの良い人

ボートで釣りをする釣り人の中に、ボートがひっくり返りそうに傾いたままでも平気で釣り続ける人がいて、はた目で見てもハラハラさせられますが、そういう人に限って注意されても又元に戻ってしまう人がいます。
終日マークして注意を払わなければならないボート屋泣かせの釣り人ですが、どういう因果関係かはわかりませんが、はっきり言って上手な人は少ないはずです。
ボートに乗り込む前、乗り込む時、乗ってからでもだいたい予測がつきます。
ここでもやはりリズムとバランスが問われます
バランスの良い人はボートのこぎ方、操船もスムースでやはりリズムの良い物なのです。

気の短い人?

昔から短気な人ほど釣りが好きと言われていますが、やはりその通りだと思います。
「釣れても釣れなくてもい~や」と、道具が間違っていようがポイントを間違えていようがかまわずにただただ時間を浪費している人が稀にいますが、そういう人と比較すると気の短い人ほど「どうして釣れないのか?」「なぜなのか?」とすぐに探究したりするので自然と上手くなっていくわけです。
どんなことがあったとしても相手が人間ならば頭に来ることでも、魚が相手では喧嘩になることがないために気の長い人より気の短い人の方が釣り向きだ、と言うわけです。

ねばれる人

ろくに釣りもしていないのに釣れないと決め付け直ぐに諦めてしまう人に釣りの上手な人はいません。反対に釣れなくても天候が少しぐらい悪くてもねばることの出来る人は釣りの上達の早い人です。
名人が釣りをしても釣れない時もあるし、ビギナーでも簡単に釣れてしまう事もあります。
私達に朝・昼・晩食・10時と3時のお茶の時間があるように、魚にも終日食欲だけということではなく、恋をする時もあるし、遊びたい時間帯もあるわけで、時遭いというものがあるのです。
1日の内には必ず何度かチャンスは巡ってくるものですし、釣れない条件が解れば釣れる条件の時だけに的を絞れるわけで、釣れないことを勉強するのも上達の一つなのです。
べた凪、ドピーカンなどで魚の釣れない時は水中のポイントがどうなっているかを見るだけでも次回の釣行に大きく役立つはずです。色々な意味のネバリが必要なのです。

順応性のある人

かたくなに自分の釣りを勝手に確率して拘りの釣りをする人がいます。楽しみ方としては非常に面白いと思いますが、訳もわからないのに最初から拘るのはイカガナモノカと思われます。色々な意味で釣りの楽しみ方を狭めてしまいます。まず色々やってみてから充分魚が釣れるようになってから拘ればよいのです。
魚が自在に釣れるようになると本心から魚が愛おしくもなり、大切にしようと言う気持ちが自然と備わってきます。
そこまで到達したら.魚に思い切りハンディキャップを与え難しい釣りに拘ればよいのです。
鮎釣の場合では、同じ所で育った鮎をAという川とBという川、幾つかの川に放流したとすると各河川の環境の相違から鮎の性質や行動が著しく変わり、釣り方は勿論のこと使用するハリの形状まで変えなければよい釣りが出来ないこともあります。
郷に入れば郷に従え、その時々・場所に順応して柔軟に釣りに臨むことをお勧めします。
拘りと頑固が重なると楽しさは大きいかも知れませんが釣果は望めないはずです。
逆に順応性の高い人は湖だけでなく海や川の全ての釣り、様々な釣り方に何をやっても共通した上手さを持っています。
まだまだ色々な条件はあると思いますが、いずれにしても「釣りが上手」と人から評価されるためには、にわか仕込みの形ばかりでなく、釣行を重ね訓練を重ねて体で覚えたものがそれなりに自然と色々な形で滲み出て来るようにならなければなりません。